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みなさんこんにちは 

このところ放射線被ばくの管理や規制がよりいっそう厳しくなってきていますね。
放射線被ばくに関しては、様々な法規制が敷かれているのですが、それらの動向を確認し管理するだけでも相当の労力がかかります。

昨年は放射線障害防止法はRI規制法として改正され、今年の4月からは医療法で被ばく管理が求められるようになりました。そのような中、眼の水晶体の被ばく限度の見直しが進められていますが、今回はその動向と我々技師が準備すべきことについてまとめてみたいと思います。

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眼の水晶体の線量限度は高すぎた!?

現在、電離放射線障害防止規則(電離則: 昭和47年労働省令第41号)の放射線障害防止関係法令では、眼の水晶体の等価線量限界は年間150 mSvに定められています。しかし、2011年4月21日にソウルで開催された国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection: ICRP)は、会合の最終日に「組織反応に関する声明」を発表(通称:ソウル声明)しました。彼らは水晶体の等価線量限度に関して、「定められた5年間で平均20 mSv/年、かついずれの1年においても50 mSvを超えない」ことを勧告し、日本の法令もこれに準拠して改正するために、見直しが検討されています。

ソウル声明のより前、2003年のICRP Publication 92では、白内障のしきい線量が、従来考えてきたしきい線量より低い可能性を指摘していました。そしていくつかの疫学的知見により、眼の水晶体の吸収線量のしきい値は、今では0.5Gyと考えられています。

参考文献
浜田信行 第1回放射線審議会眼の水晶体の放射線防護検討部会 新たな水晶体等価線量限度と国外動向

白内障とは

白内障は水晶体に濁りが生じることによって、まぶしさや目のかすみ、視力低下が起こってくる病気です。白内障の原因である水晶体の濁りを元に戻す方法は、手術で人工のレンズを挿入する以外に現在のところありません。そして、水晶体は放射線感受性が非常に高く、放射線白内障は以下の機序により発生すると考えられています。

 水晶体赤道部にあるgerminal zoneの細胞は極めて分裂能が高く、水晶体線維を形成する。
 germinal zoneの水晶体上皮細胞が放射線の被ばくを受けることにより、細胞内にフリーラジカルが産生され、DNAに損傷を生じる。
 水晶体タンパク(クリスタリン)の構造変化をきたし、水晶体上皮細胞および有核の水晶体線維が変性する。
 変性した細胞は赤道部から後嚢側へ移動し、後嚢中央部まで迷入することにより混濁を生じる。

  • 放射線白内障には微小混濁として、顆粒状混濁(dot)、Vacuolesがあるが、視機能への影響はほとんどない。
  • 視覚障害性白内障としては後嚢下白内障が特徴的。
  • 佐々木洋 第4回眼の水晶体の被ばく限度の見直し等に関する検討会 眼の放射線障害の機序と実態より引用

    白内障を発生する場所によって分類すると、核白内障、皮質白内障、前嚢下白内障、後嚢下白内障に分けられ、医療従事者は、後嚢下白内障の発症の可能性が高いと考えられています。

    微小混濁と視覚障害性白内障

    ソウル声明以前は、 微小混濁は必ずしも視覚障害性白内障に進行しないとして、しきい線量を視覚障害性白内障と微小混濁に分けて勧告していました。しかし新勧告では、微小混濁が視覚障害性白内障に進行するとして、しきい線量を分けずに勧告しています。また線量率依存性について、旧勧告では線量率効果があるとして、しきい線量を急性被ばくと多分割・遷延被ばくに分けて勧告していましたが、新勧告では、線量率効果がないとして、しきい線量を分けずに勧告しています。

    浜田信行 第1回放射線審議会眼の水晶体の放射線防護検討部会 新たな水晶体等価線量限度と国外動向より引用

    防護メガネ

    放射線防護メガネは以下の会社から販売されています。
    ・ドクタージャパン株式会社 医療従事者用放射線防護メガネ「Dr.B-Go」

    www.drjapan-jp.com
    放射線関連商品|放射線関連製品|製品情報|ドクタージャパン株式会社
    http://www.drjapan-jp.com/j/products/xray/index.html
    医療用特殊針(主に麻酔針、生検針)の製造、販売を通じて医療・文化・環境への貢献を目指すドクタージャパン株式会社(英文社名: Dr.Japan Co., Ltd)の公式ホームページです。

    ・保科製作所 X線防護メガネ パノラマシールド ウルトラライト ¥33,000 パノラマシールド エクストラワイド ¥43,000

    防護メガネの効果

    IVR 従事者において軽量タイプ防護メガネの放射線防護効果は 60%程度であることが分かった。

    日本経済新聞社 東北大、放射線医療従事者の水晶体被曝の実態と危険性を解明より引用

    今後の動向

    厚生労働省では、眼の水晶体の被ばくに係る放射線障害防止対策として予防的観点から、ALARAの原則に則り、実施可能な被ばく低減対策への取組が進むよう、また、眼の水晶体の等価線量限度に加えて、実効線量や皮膚の等価線量についても、引き続き適切な管理が行われるように、平成29年4月18日付け基安発0418第1~5号「放射線業務における眼の水晶体の被ばくに係る放射線障害防止対策について」を発出しています。そして、令和元年11月1日付け基安発1101第1号「業務従事者等に対する線量測定等の徹底及び眼の水晶体の被ばくに係る放射線障害防止対策の再周知について」を発出しています。

    また、厚生労働省では、「眼の水晶体の被ばく限度の見直し等に関する検討会」の報告書を取りまとめ公表しています。
    眼の水晶体の被ばく限度の見直し等に関する検討会はこちら(外部リンク)>>

    参考文献

    ICRP勧告 日本語版シリーズ(PDFダウンロード)はこちら(外部リンク)>>
     

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