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うわー

患者さんの服を造影剤で汚してしまったー

患者さんの時計に気付かずにMRI検査して、時計が動かなくなってしまったー

患者さんの杖がドアに挟まって折れてしまったー

患者さんのメガネを踏んで壊してしまったー

どうしよう〜

みなさんも何かしらやってしまった経験やヒヤっとした経験があると思います。

そんなとき病院側から、

「患者さんの衣服のクリーニング代や物の毀損は個人の責任で補償してください」

と冷たくいわれた人や、まだやってないけど、

「そういうことが起きたときは、病院側は関わらないから自己責任で解決してください」

といわれた人がいると思います。

ちょっと待ってください!

あ、そういうときはそういうものなんだって素直に納得しないでください!

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民事上の責任

 医療従事者の過失(不注意)により、患者の私物を破損した場合には、民法上の損害賠償責任を負うことになります。しかし、業務中の遂行中に起こった賠償責任問題は、必ずしも診療放射線技師個人だけが責任を負うものではなく、その使用者である施設も使用責任をはじめとする損害賠償責任が問われます。したがって、個人で解決しようとするのではなく、まずは速やかに上司に報告することが鉄則です!

でも、病院(上司)から「患者さんの私物の毀損は、あなたが起こしたことだから、あなたが責任をとってください。」といわれましたけど…

という方、病院側のそんな勝手な言い分は、世間で通用しませんから、絶対に個人で解決しようとしないでください!

使用者責任

民法715条に使用者責任が規定されています。その内容は、

ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

つまり、使用者責任とは,条文に規定されているとおり,不法行為者の使用者(雇い主・会社等)が損害賠償責任を負担するという法的責任のことをいいます。

ただし,使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。

という免責事項も規定されています。

病院側の責任と思惑

医療事故を未然に防ぐための効果的な手段の一つとして、ヒヤリ・ハットのインシデント報告があります。日常業務でヒヤリとしたことを報告して、医療従事者間でその情報を共有し、医療事故を未然に防ぐ目的で、みなさん積極的に報告されていると思います。

表向きは、医療事故を未然に防ぐための効果的な手段としてとらえられていますが、裏を返せば、医療事故が起こったとき、ヒヤリ・ハットのインシデント報告およびその対策は、病院側の使用者責任防衛手段として使うこともできます。

事故または損害が生じたとき、

「これはもう以前にインシデント報告から対策が決められていたことなんだから、あなたがそれを守らなかったことによる事故や損害はあなたが責任をとるべきじゃないの?」

と、インシデント報告の対策から、病院側はあなたに故意または重過失があったことを主張し、使用者責任を免れようとします。つまりこの場合、病院側は、715条1項但書の免責事項「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」を主張しているわけです。

しかし、使用者がこれを立証すれば免責されるといわれていますが、実際の判例おいて使用者の免責を容易に認めていません。そのため、1項但書は死文化しており、実質的には無過失責任に近い運用がなされていますので、事故または損害が生じたとき、病院側の使用者責任は免れないでしょう。

 いずれにしても、医療事故や損害が生じたときは、自分だけで解決しようとせず、まずは上司に報告し病院側の対応をみましょう。こういう問題はどこの病院でも必ず起こっています。普段から病院側の対応をみておき、有事の際は、弁護士に相談したり、事前に保険に加入するなど準備しておくことも大切です。

使用者(病院)の被用者(技師)に対する求償の問題

’いかに使用者責任(病院の責任)とはいっても,実際に不法行為,つまり事故を起こしたのは被用者(技師)ですから,使用者は,被用者に対して,被害者に支払った損害賠償金を求償することができます。(民法715条3項)

使用者賠償責任は、使用者は被用者を使って利益をあげているのであるから,その被用者を使うことによって生じた不利益も甘受すべきであるという原理からきています。したがって,その被用者が,事業に関して起こした不利益については,被用者の代わりというわけではなく,使用者自身も一定の負担をすべきであるということになります。

そのため、使用者の被用者に対する求償権の行使は,一定の限度において制限されると考えるのが通説的な考え方です。もっとも、どの程度制限されるのかというのは、個々の事情によって異なってきます。

過去の事例によると、結論として、使用者が求償できる金額は4分の1にとどまるとしていますが,事案によっては,使用者から被用者への求償を一切認めなかったという裁判例もあります。’交通事故・損害賠償請求ネット相談室から引用
裁判例などからすると、使用者の求償権は大幅に制限されることが多いといえますが、過失に相当するそれ相応の金額が病院から請求されるリスクは残されています。

損害賠償額の算定と示談契約の締結

患者に損害が生じたときの損害賠償額の算定ですが、この点については、当該私物の代替物を購入するに際しての見積書や領収書等を患者から提供してもらうことで、損害賠償額を算定することができます。

なお、患者の私物の破損につき、患者の側にも過失(不注意)があった場合には、過失相殺により、損害賠償額を減額を求めることが可能です。

損害賠償額についての話がまとまった場合には、患者と病院側との間で示談契約を締結します。示談契約を締結するに際しては、その内容を事前に弁護士等に確認してもらうようにします。

患者さんの高額な装飾品は特に注意

どこの病院でも、患者さんに高額な装飾品や貴重品を持ち込まないように注意喚起していますが、それでも、そういうことに注意を払わない患者さんはいらっしゃいます。我々診療放射線技師は、検査において、検査の障害になるような装飾品は、可能な限り外してもらいます。

十分に注意して頂きたいのが、検査のために指輪や時計、ネックレス、ピアスなどを外してもらうとき、検査中はその管理に細心の注意を払ってください。

「検査後にさっき検査のために指輪を外して、ここに置いておいたけど、なくなっています。」みたいなことを言われると、その対応に追われ、検査どころではなくなってしまいます。

検査中は鍵付きロッカーに患者さんの貴重品を保管し、患者さん自身がその鍵を管理するのがもっとも良い方法です。しかし、鍵付きロッカーが必ずあるわけではないので、そういう場合は、検査中、貴重品は必ず患者の目の届くところに置いておく、ベッドなどの枕元に小さいブルーシートを敷いて、そこに指輪やピアス、ネックレス等を置いてもらい、目立つようにするのも紛失防止に効果的です。

最後にもう一度いいますが、患者の私物を毀損し、自己負担で弁償させられそうになったとき、

お金はださない!

必ず弁護士に相談しましょう。

 

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