23463934_sみなさん、こんにちは。
近年、診療放射線技師の業務範囲が広がり、2021年の法改正により「静脈路の確保」が正式に認められるようになりました。これにより、CTやMRIの造影検査、RI検査において、診療放射線技師が自ら静脈穿刺や造影剤の投与、抜針などを行う機会が増えています。

この新たな役割は、医療の現場において大きな変化をもたらしましたが、一方で「実際にどう習得すればよいのか」「失敗した場合の責任はどうなるのか」「業務負担が増えるのでは?」といった疑問や不安の声も少なくありません。そこで今回、診療放射線技師が静脈路確保を行ううえでの実践的なコツやリスク、研修体制、現場での工夫などをわかりやすく解説したいと思います。

1. 静脈路確保の実践的なコツ・技術ポイントなど現場での工夫は?

告示研修だけではわからない、現場で役立つポイント

  • 穿刺部位の選択: できるだけ真っ直ぐで太めの静脈を選びます。屈曲の多い血管でも逆血(フラッシュバック)は見られますが、カテーテルを進めにくく穿刺が難しくなります。肘窩では肘を完全に伸ばしきると静脈が見えにくい場合があり、少し肘を曲げると静脈が浮き出ることもあります。手関節付近(橈側)や前腕内側(正中側)など神経や動脈に近い部位への穿刺は可能な限り避け、安全な部位を選択します。
  • 駆血帯を巻く: 駆血帯は、穿刺部位の5~10cm上部に巻くようにします。あまり強く巻くと血液流入が停止し、怒張が不十分になります。逆に、あまり緩いと血管の怒張が不十分で、穿刺が難しくなる恐れがあります。駆血帯を巻くことによって、血液が心臓に戻りにくくなり、血管をしっかり怒張させることができるため、深く穿刺せずに済みます(採血時の駆血と「駆血帯」について 株式会社コスミックエムイー)。そして初心者によくあるのが、駆血帯をうまく巻けないことです。特に、巻きが甘くて緩んでしまうケースが多く見られます。確実な静脈確保のためには、しっかりと駆血できるように、普段から人体ファントムなどを使って練習することが大切です。最近では、金属製のピンチが付いたタイプの駆血帯も市販されており、簡便にしっかり駆血できるため便利です。しかし、MRIで使用する場合には注意が必要です。金属部分がMRI対応であるかどうかを事前に必ず確認するようにしてください。ただし、金属付き駆血帯を使用している場面を他の医療スタッフが目にすることで、金属付きの駆血帯はすべてMRIでも使ってよいと誤解されるリスクがあります。これは非常に危険です。そのため、MRI室での金属ピンチ付き駆血帯の使用は推奨しません。私自身は、MRIでの静脈確保の機会も考慮し、金属ピンチのない駆血帯を使って慣れるように練習しました。どの現場でも対応できるように、最も汎用性が高く、安全な器具を使いこなせるようにしておくことが重要です。
  • 血管の固定と刺入: 高齢者など皮膚にたるみがある場合は、皮膚を引っ張って静脈を固定すると安定し刺しやすくなります。また、血管が逃げやすい方の場合は、たとえば右手でサーフロー針を刺す際に、左手で患側の腕を下から支えつつ、皮膚を左右に引っ張ると、よりしっかりと血管を固定でき、刺入がしやすくなります。刺入角度は血管までの深さを考慮し、必要に応じ筋肉・脂肪量で調整します(深く刺しすぎないよう注意)。穿刺針が血管に入ったときは逆血が確認できます。このとき、慌ててカテーテルを進めないようにしましょう。まだ針先が完全に血管内に留まっていない可能性があります。まずは、穿刺針がしっかりと血管内に留まるように安定させる必要があります。ここで一呼吸置きたくなるところですが、そのままの状態で時間をかけすぎると、血液が血管外に漏れ、内出血の原因となります。そのため、落ち着いて、かつ素早く次のステップに進むことが重要です。穿刺針を進める際は、浅めの角度でゆっくりと挿入し、血管内に入ったことを確認したら、速やかにカテーテルを進めてください。なお、テルモ社のサーフローZEROを使用している場合は、「OKフラッシュ」のサインが視認できます。このサインが確認できたら、それを目安にしてカテーテルを進めましょう。
  • 器材と手技の工夫: 可能な限り細いゲージ(針の太さ)・短いカテーテルを選びます。高速注入が必要な検査では施設の基準に応じ太さを選択しますが、太すぎる針は静脈炎リスクがあるため必要最小限の太さに留めます。また金属針や翼状針(留置せず針が残るもの)は血管・神経損傷リスクがあるため原則使用せず、留置カテーテルを用いるのが望ましいとされています。穿刺後は生理食塩水でフラッシュして血液の逆流を確認し、薬剤が確実に入るルートかどうか確認します。もし動脈に穿刺していた場合は、逆血がいつもの暗赤色(静脈血)でなく、明るい鮮紅色になっています。そのようなときは、動脈に穿刺した可能性を疑いましょう。しかし、生理食塩水や造影剤が血液と混ざると、血液が一時的に鮮紅色に見えることもあります。そうした場合には、生理食塩水(造影剤)と血液の境界面を観察し、その境界が拍動しているようであれば、動脈への穿刺が強く疑われます。このような場合には、そのまま注入したり、すぐに抜針したりせず、必ず医師に報告し、適切な処置をしましょう。CTやMRIなど臨床現場では、動脈穿刺に遭遇することは稀ではありません。特に正中から内側の血管を選んで穿刺する際には、動脈の走行に十分注意し、常に動脈穿刺の可能性を念頭に置いて慎重に操作することが重要です。また、初心者によく見られるのが、穿刺後に神経損傷の有無を確認するための「痛みの有無の確認」を忘れてしまうことです。穿刺がうまくいくと、つい安心してしまい、その後の確認を怠ってしまいがちです。しかし、神経損傷は早期に発見することが重要です。穿刺後は必ず患者さんに「痛みやしびれはありませんか?」と声をかけ、異常がないかを確認する習慣を身につけてください
  • 過去情報の活用: 難しい患者では過去の注射記録を参考にします。同じ患者でどの部位が成功したか、失敗したか、どんな手法(針のサイズや角度)が有効だったかを事前に共有しておくと役立ちます。例えば透析患者や血管が脆弱な患者では、カルテに前回の穿刺部位・使用針などの情報を記録し、次回の検査時に活かすようにします。
  • 衛生と安全の留意: 手袋の着用に慣れていない技師もいるため、必ず手袋をして確実に針操作を行う訓練が必要です。穿刺後の抜針時の針の扱いも慎重に行い、直ちに注射針回収容器(シャープスボックス)に捨てて針刺し事故や汚染を防ぎます。万一うまく留置できない場合は深追いせず、2回試みても確保できなければ原則他の人に交代するというルールを守ります。無理な反復穿刺は患者の苦痛やリスクを高めるため、上手くいかないときは速やかに熟練者へ依頼します。

2. 技師による過失時の事故事例と補償制度・医療賠償保険

静脈路確保に関連して起こり得る代表的な事故例とその対応

誤穿刺(動脈穿刺)

静脈と誤って動脈に穿刺してしまうケース。肘正中皮静脈を狙ったが鮮紅色で拍動のある逆血で動脈と判明した例など​。肘を過伸展し静脈拡張が不十分だと動脈との距離が近くなりリスクが高まります​。

対応: 針はすぐ抜かずそのまま固定し、医師に連絡して対応を仰ぐ。動脈穿刺と確認できたら針を抜去し圧迫止血を実施​。患者さんには放射線科医から状況説明と謝罪を行い、了承を得て改めて別の静脈に確保し検査を続行​。

再発防止: 肘を伸ばしすぎない、静脈の弾力を十分確認、刺入角度を浅めにする、駆血帯の強さ調整などで動脈誤穿刺を防ぐ​。

造影剤の血管外漏出

留置針が血管から外れて造影剤が組織内に漏れるケース。例:点滴ルートを確保してCT室に来た外来患者で、造影剤100mLが全量皮下漏出した事例​。点滴自体は滴下しており異常に気づけず、高濃度造影剤注入時に起こった。患者の訴えが不明瞭で抵抗や痛みの申告がはっきりしなかった。

対応: 注入中、異常な抵抗や腫れがないか常にモニタリングします​。圧力変化がなかった場合でも、撮影画像で造影効果が得られなければ漏出を疑い中止。漏出が判明したら患肢を挙上し安静、必要に応じて形成外科などにコンサルテーションを行います。

再発防止: 生理食塩水では逆血確認できないため、患者とのコミュニケーションを密にし「痛みや違和感があればすぐ教えてください」と周知します​。また疑わしい場合は再穿刺も検討し、造影剤の注入速度を落とす判断も必要です​。

当院でのタスク・シフト/シェアの取り組み 全国病院経営管理学会令和6年度診療放射線業務委員会報告会より要約

神経損傷

穿刺針が正中神経など末梢神経を傷つけてしまう事故。頻度は極めて低いですが、過去には看護師が点滴中に正中神経障害を訴えられ訴訟になったケースがあります​。症状として手指の麻痺・激痛・カウザルギー(灼熱痛)が残存する可能性があります。

対応: 患者が刺入時に鋭い痛みを訴えたらすぐ針を抜き、別の部位に変更します。神経損傷が疑われる場合は神経内科や整形外科に相談し、必要な治療(疼痛管理やリハビリ)を行います。

法的側面: 正中神経の本幹レベルの損傷なら過失と見なされ得ますが、皮神経の損傷は完全には防げないと裁判所も認めています​。実際の裁判では「看護師に注意義務違反は認められず、患者の請求棄却」という判決例もあり​、神経損傷ゼロは困難でも禁忌部位を避け注意義務を尽くすことが求められます​。予防のため肘窩中央の深部(正中神経走行部)へは刺さないよう十分注意します。

静脈注射が原因で神経損傷?看護師が訴えられた事例 看護roo!より要約

急性副作用(アナフィラキシーなど)

ヨード造影剤によるアレルギー反応。軽度の蕁麻疹・嘔気から、まれに血圧低下や意識低下を伴うアナフィラキシーショックに至ることもあります。発生頻度は低いものの致命的リスクがあり、どの症例でも起こり得ます。

対応: 注入開始から数分以内に症状が出ることが多いため、連続的な観察が必要です​。蕁麻疹、咳嗽、顔色不良、意識変化など兆候があれば直ちに注入を停止し、医師に救急対応を要請します​。院内の緊急対応マニュアルに沿ってアドレナリン筋注や酸素投与、気道確保、点滴急速投与など初期対応を実施し(医師または看護師が薬剤投与)​、必要なら救急蘇生チームの応援を求めます​。予防として造影歴の問診徹底や前投薬(必要時)を行い、万一発生しても迅速に処置できるよう準備します。

放射線科医から診療放射線技師への タスク・シフト / シェア のためのガイドライン集公益社団法人 日本診療放射線技師会 一部抜粋

補償制度と医療賠償責任保険

診療放射線技師が業務中に患者に損害を与えた場合、基本的には病院の賠償責任保険や所属団体の保険でカバーされます。例えば日本診療放射線技師会では会員全員に自動付帯の賠償責任保険を用意しており、業務上生じた他人の生命・身体の損害に対する賠償責任を補償します (公益社団法人 日本診療放射線技師会)。この保険では法律上の損害賠償金だけでなく、訴訟費用や弁護士費用も補填されます (診療放射線技師賠償責任保険 – 株式会社メディクプランニングオフィス)。さらに必要に応じて任意加入で保険金額を上乗せできる制度もあり、2020年時点で6,300名以上が追加加入しています (公益社団法人 日本診療放射線技師会)。

⇒加入のポイント: 病院が包括的な医療賠償保険に入っていても、個人として技師会の賠償責任保険等に加入しておくと安心です (公益社団法人 日本診療放射線技師会)。万一重大な事故で訴訟になった場合でも、保険により賠償金や訴訟費用がサポートされます。また事故が起きた際の院内報告制度(インシデントレポート提出や医療安全管理部門への連絡)にも則り、適切な補償と再発防止策が講じられるようにします。

3. 静脈路確保に伴う業務負担(時間・心理的プレッシャー・責任の重さ)

新たに静脈穿刺業務を担うことで診療放射線技師に生じる負担や意見

  • 時間的負担と業務量: 静脈路確保を技師が行うことで、検査準備に要する時間が増える可能性があります。特に造影CTやMRI件数が多い施設では、穿刺にかかる時間が撮影ワークフローに影響する懸念もあります。ただし、医師や看護師を待つ必要が無くなるため検査全体は効率化し、トータルの所要時間は短縮されるケースも報告されています。実際に導入した医師からは「ルート確保に割いていた時間が減り読影中断も減少、読影に専念できる時間が増えた」と業務効率の向上を評価する声もあります。一方で、その分技師個人の業務量は増加するため、他業務との両立を図る工夫(担当の割り振りや件数の平準化など)が必要です。
  • 心理的プレッシャー: 今回の業務拡大で初めて患者への侵襲行為を担う技師も多く、精神的緊張や不安が指摘されています。事前のアンケートでは「訴訟にならないか不安」「有害事象が起きた時の対処法が分からない」といった声や、「研修後すぐ人に処置させるのは怖い」との現場指導者側の慎重な意見もありました (診療放射線技師法 改正 – ご案内 – [公式] 採血練習キットsensitiv®(センシティブ))。特に初期段階では神経を傷つけないか、失敗して患者に迷惑をかけないかとプレッシャーを感じる技師が多かったようです。実際、「院内で実技トレーニングの場が少ないので不安」「万一失敗した場合の責任の所在が不明確」といった懸念も示されています。こうした不安を和らげるには、十分なシミュレーション訓練やメンターのサポート、失敗しにくい手順の標準化など心理的安全性の確保が重要です。
  • 責任の重さと評価: 静脈穿刺は患者への侵襲を伴う医行為であり、技師にとって責任の重い業務です。技師自身も「業務範囲拡大で責任が増えた」と感じており、その負担に見合った処遇を求める意見もあります。例えば「技師の負担や責任が増えたので給与アップを検討してほしい」という声が実際に上がっており、新たな業務に対する正当な評価・報酬が課題となっています。また看護師側からも「技師が協力してくれるのは助かるが、技師が大変になりすぎないか心配」という意見が聞かれ、周囲も技師の負荷を気遣っています。したがって運用にあたっては技師に業務が偏りすぎないよう配慮し、組織的なサポート(人員配置の見直しや業務改善)を行うことが望まれます。
  • ポジティブな側面: 一方で本業務拡大は技師の専門性向上にも繋がっています。「意外と自分たちでもできる」と自信を深めた技師も多く、検査効率向上やチーム医療の推進に貢献しているという達成感を得られる面もあります。医師・看護師から感謝されることでモチベーションアップに繋がったとの報告もあり、適切な研修と環境整備次第では技師のやりがい向上にも寄与するでしょう。

4. 一人前に静脈穿刺をこなせるようになるまでの研修期間・必要な実技経験数

習熟に必要な研修プロセスと症例経験の目安

公式には、診療放射線技師が静脈路確保を行うには厚生労働省が定めた「告示研修」の修了が必須です。この研修は「基礎研修」と「実技研修」からなり、合計最低約18時間のカリキュラムで実施されます。静脈路確保に関する内容が最も多く配分されており、シミュレーターを用いた実習が約2時間含まれています。しかし2時間程度の模型練習ですべての手技を習得するのは難しく、研修を受けたからといって即座に実患者にスムーズに穿刺できるわけではありません。現場の声でも「2時間の実技研修で静脈穿刺の技術をすべて習得できた人はかなり稀」と指摘されています (診療放射線技師法 改正 – ご案内 – [公式] 採血練習キットsensitiv®(センシティブ))。そのため研修修了後は各施設で十分なOJT(実地研修)を積むことが不可欠です。

実際に一人前となるまでの流れの一例

段階 研修・経験内容
公式研修修了 基礎講習+実技実習(約18時間)*静脈解剖、生理、手技の講義。シミュレーターで穿刺訓練(約2時間)。
院内初期研修 約1~10例熟練者(医師または看護師)の立ち会いの下で穿刺を実施。看護師から事前指導を受けた上で患者に対する初回穿刺を行うケースも多い。
実践経験積み上げ ~約100例技師単独での静脈路確保を繰り返し実施。必要に応じて難例では先輩にヘルプを求めつつ、様々な患者で経験を重ねる。
指導者レベル 100例以上十分な経験を積み医師が認めた技師は、後進の初期立ち合い指導者に認定。新人技師の穿刺に立ち会い、安全に指導できる立場となる。

※上記はJCHO東京山手メディカルセンターでの取り組み事例を基にした一例です。私の経験で恐縮ですが、大体30件程度経験したときにちょっとコツを掴みつつ、血管確保に慣れてきた気がしました。他施設でも概ね「最初は有資格者のフォロー下で訓練し、慣れれば単独実施」という流れを踏むところが多いと考えられます。新人看護師が採血やルート確保に一定期間の指導を要するのと同様、診療放射線技師も実際の患者相手に数十例の経験を積んで初めて一人前と見なされるでしょう。厚労省の研修修了はスタートラインに過ぎず、現場ごとのOJT計画(目標症例数や期間の設定)が重要です。

5. 指導者に求められる経験年数・穿刺件数の基準や実態

新人技師を教える“指導者”の要件と現状

診療放射線技師が静脈穿刺の指導者となる公式な全国基準は今のところありませんが、現場では豊富な穿刺経験を持つ技師が実質的にトレーナー役を担っています。前述の事例では「100例を超え、放射線科医から認められた者」を指導者に認定し、新たに始める技師の初期穿刺に立ち会わせています。このように症例経験数(約100例)が一つの目安として用いられており、それは安全に指導できるラインと考えられているようです。100例というと、造影検査の件数にもよりますが1~3ヶ月程度の実践経験で到達する規模と言えます。

指導者として求められるのは単に件数だけでなく、的確な指導スキルと知識です。経験豊富な技師でも教えるとなると別の能力が必要なため、指導方法の研修やマニュアル整備も今後の課題です。現場の声では「経験豊富な技師がきめ細かに指導してくれて助かった」というポジティブなものがあり、理想的には一定年数勤務し穿刺症例も豊富な中堅技師がメンターとなる形です。具体的な年数で言えば、看護師の静脈注射技術が安定するとされる8~10年目あたりを目安にする意見もあります(看護分野の報告では平均8.5年の経験で安定との指摘あり) ([PDF] 卒業後 1・2 年目の看護師の 点滴静脈内注射の技術学習に対する認識)。もっとも技師の場合、造影検査件数が多ければ年数より症例数がものを言うので、件数重視で判断する施設が多いでしょう。

指導者確保と他職種からの支援: 初期の頃は看護師が講師役となり技師に指導したケースも少なくありません (静脈路確保(院内実技研修)〖放射線科〗 | 魚沼市立小出病院|一般財団法人魚沼市医療公社)。実際、院内研修で看護師から模型相手のトレーニング指導を受け「練習キットですら悪戦苦闘したが、看護師に優しく丁寧に教えてもらったおかげで全員が静脈確保できるようになった」という報告もあります (静脈路確保(院内実技研修)〖放射線科〗 | 魚沼市立小出病院|一般財団法人魚沼市医療公社)。このように他職種と連携した教育は効果的で、放射線科医による勉強会開催の例も報告されています。放射線科医が中心となって講義・実技指導し、技師長クラスが実践トレーニングを見る形など、チームで新人を育てる体制が望まれます。

現状では「経験年数○年以上」「穿刺○件以上」といった全国統一の指導者資格はありません。しかし各施設が安全管理上十分と判断できるベテランを指導担当に据えて運用しているのが実態です。今後、症例共有や指導ノウハウの蓄積が進めば、学会や技師会から指導者要件のガイドラインが提案される可能性もあります。それまでは現場ごとに工夫し、指導者層の育成に努めていく段階と言えるでしょう。

6. 副作用など緊急時の対応手順、院内連絡体制・マニュアル整備

院内の連絡系統とマニュアル整備

  • 緊急時の体制構築: 造影検査を行う部署では事前に「急変時に医師が直ちに駆け付けられる連絡体制」を構築しておく必要があります。具体的には、検査中に技師からワンタッチで当直医や放射線科医に連絡できるホットラインの整備、院内PHSやコードブルーボタンの配置などです。放射線科医や救急対応医は、造影剤投与中はすぐ対応できるような運用が望ましいでしょう。また検査室近くに救急カートを常備し、薬剤(特にアドレナリンの使用期限)や酸素ボンベ残量、AED動作確認などを定期点検しておきます。
  • マニュアルの整備と教育: 院内で造影剤副作用対策マニュアルを作成し、全ての関係者に周知します。厚労省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル(アナフィラキシー)」などを参考に、上記初期対応の流れや連絡先を明記します ([PDF] アナフィラキシー/血管迷走神経反射を含めて – 厚生労働省)。例えば「①医師呼び出し(内線○番)、②注入停止/アドレナリン筋注、③看護師応援要請(ナースコール)、④酸素投与開始、⑤バイタル測定、⑥必要ならコードブルー発報」のようなフローチャートを用意します。シミュレーショントレーニングの実施も有効です。定期的に造影剤ショック対応の模擬訓練を行い、技師・看護師・医師それぞれの役割を確認しておけば、有事の際に慌てず対応できます。特に夜間や休日体制では誰が駆けつけるかを明確化し、救急車搬入と同等の初動がとれるようにしておきます。
  • 情報提供とフォローアップ: 患者さんには検査前に副作用発生時の対応体制が整っていることを説明し安心してもらいます。また検査後には「万一自宅に帰ってから遅発性副作用が出た場合の連絡先」を案内し、フォローアップできる体制も含めてマニュアル化します。発生したショック事例については院内の医療安全委員会で検証し、マニュアルの改善や共有すべき教訓(例えば前投薬プロトコルの見直し等)を反映させます。こうしたPDCAサイクルにより、院内マニュアルは常に最新版にアップデートされ、安全文化の醸成につながります。

7. その他現場で懸念されている問題点・制度的課題(責任所在、医師との連携、技術格差など)

法改正に伴い指摘・議論されている諸課題

  • 責任の所在の不明確さ: 診療放射線技師が静脈穿刺を行う行為は「診療の補助」であり医師の指示の下に実施されますが、事故発生時の責任が誰に帰属するか不明確との声があります。法律上は指示を出した医師にも管理監督責任がありますが、現実には直接処置をした技師本人も説明責任や賠償責任を問われる可能性があります。そのため技師からは「万一事故があった場合、自分が訴えられるのではないか」という不安が出ていました。この点について各施設でルール作り(インシデント発生時の報告経路や対応方針)を明確にし、技師と医師双方が納得して業務にあたる必要があります。例えば「患者説明・謝罪は医師が行う」「技師個人を責めない文化を醸成する」「事故検証は組織的に行い再発防止策を共有する」等の取り決めが望まれます。幸い多くの現場では医師が前面に立って対応しており、技師も安心して任せられるとの報告があります。
  • 医師・看護師との連携: 業務拡大を円滑に進めるには他職種の理解と協力が不可欠です。看護師から見ると「技師がIV確保技術を身につけてくれるのは心強い」「件数が多い日は本当に助かる」と歓迎する声が多く聞かれました。一方で「抜針後の針の扱いが不安な技師が時々いる」「上手な看護師の技術をぜひ盗んでほしい」など安全面の助言も寄せられています。医師側からも「技師がやってくれるのは非常にありがたい」と高評価な一方、「技師に負担が集中しすぎないか運用が不安」「看護師不足の補助にはなるが技師が大変では困る」と技師を気遣う意見が出ています。これらはチーム医療としての役割分担を再調整する過渡期にあるためで、今後はお互いの業務範囲を尊重しつつ柔軟に助け合う体制を築くことが求められます。例えば造影検査件数が極端に多い日は看護師にも応援に入ってもらう、逆に看護業務逼迫時は技師が率先して対応する、といったタスクシェアの精神が重要です。また法令上、医師の指示が必須であるため、検査当日の患者状態変化の共有(血液データや既往アレルギー情報など)を密に行い、医師と技師のコミュニケーションを深めておくことも安全な連携に繋がります。
  • 技師間の技術格差: 全ての技師が同じペースで静脈穿刺を習得できるわけではなく、個人差や施設間格差も懸念されています。経験豊富で手先が器用な技師は早期に上達しますが、経験の浅い若手やブランクのある技師は習熟に時間がかかるかもしれません。そのため「技師同士で技術を話し合う場が欲しい」との要望が出ています。現場では先輩技師が後輩にコツを教えたり、難渋例を共有する勉強会を開いたりといった自主的な研鑽の場が設けられ始めています。また日本診療放射線技師会や地域の技師会もセミナーや情報交換会を開催し、ベストプラクティスの共有を図っています。制度面では、告示研修の開催数や定員に限りがあり「受講希望者がすぐ定員に達してしまう」現状も指摘されました。研修機会の地域偏在や待ち時間は、結果として習熟度の個人差に繋がりかねません。今後は研修開催を増やす、オンライン講義やVRシミュレーター導入で補完するなどして、全国どこでも技師が均等にトレーニングできる環境整備が望まれています。
  • 業務範囲拡大に関する制度上の課題: 法改正によって診療放射線技師の職域が広がったとはいえ、現場の運用方法が詳細に決まっていない部分もあります。例えば「誰がどの患者のルート確保を行うか」「難しい症例はどの段階で医師や看護師にエスカレーションするか」「夜間緊急時の対応はどうするか」といったルール作りは各病院に委ねられています。これらを明文化した院内手順書を整備しておかないと、担当の押し付け合いや対応遅れの原因になりえます。また「放射線科医が不足している施設では誰が技師に支持・指導するのか」「診療所規模で看護師不在の場合、技師だけで対処可能か」など組織体制による課題もあります ([PDF] 2021年度アンケート調査 「放射線部門の労務管理」)。さらに、技師による造影剤注入業務はあくまで任意であり義務ではないため、技師側のモチベーションや院内合意も重要です。医療法改正後も「リスク回避のため敢えて実施していない」という施設も一部には存在します (診療放射線技師法 改正 – ご案内 – [公式] 採血練習キットsensitiv®(センシティブ))。これは「人手が足りており無理に技師にさせる必要がない」「改正直後で様子見」といった理由からですが 、医師の働き方改革の趣旨からすれば徐々に導入が広がる見込みです。その際、技師に過度な負担をかけず患者安全を守れる運用を確立できるかが制度面の鍵となります。
  • 継続的な教育と質の担保: 業務拡大に伴い、定期的な技能評価や更新も議論の余地があります。現在は一度研修を受ければ終わりですが、数年おきにフォローアップ講習を行う、一定件数以上の経験を維持する、といった仕組みで質を担保することも考えられます。また万一重大インシデントが発生した際の資格停止や再教育制度も今後検討課題になるかもしれません。しかし何より大切なのは、組織ぐるみで安全文化を醸成し技師を支えることです。個人の技量差を補うダブルチェック(例:穿刺箇所のセカンドオピニオン)や、常に相談しやすい雰囲気作りなど、制度と現場両面から課題解決に取り組んでいく必要があります。

以上、2021年の法改正で可能となった診療放射線技師による静脈路確保について、実践的なコツから安全管理・教育体制まで現状と課題を総合的に整理しました。今後も最新のガイドラインや事例を注視し、患者さんに安全で円滑な検査を提供できるよう努めることが求められます。

 

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