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新型コロナウィルスで医療従事者の罹患率が上昇しています。

我々技師も最前線で検査に対応してますが、感染対策が十分にできない中での検査や、感染防護の知識がない中で対応することは、さらに医療従事者に感染を広める原因となりますので、感染対策についての知識をしっかりと身につけることが大切です。

闇雲にウィルスを怖がっているだけでは、医療を必要としている人にとって治療の機会を逃し、命を危険にさらしてしまうことになりかねません。

正しく恐れて、正しく対応することが何よりも重要です。

空気感染するのか

新型コロナウィルスは、飛沫・接触感染です。空気感染はしないといわれています。したがって、患者さんにはマスクを装着して頂き、我々は患者さんからの飛沫を避け、接触した場所はしっかりと清拭消毒する必要があります。

ただし、世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルスについて、比較的長い時間空気中を漂うウイルスを含む微粒子(エアロゾル)によって感染が起きる可能性を指摘しています。

エアロゾルとは空気中の微粒子のことで、医療ではエアロゾルが一時的にたくさん発生する処置を行うことがあり、そのとき医療従事者は空気感染のリスクを避けるために、N95マスクを着用するなどの対策をする必要があります。

エアロゾルを生じると考えられている手技と注意点
・気管挿管/抜管  ・気管支鏡
・開放式吸引 ※ただし、閉鎖式吸引においてもエアロゾルが発生する可能性があります
・用手換気  ・人工呼吸器の回路を外す行為
・ネブライザー  ・腹臥位
・NPPV  ・HFNC
・経鼻胃管挿入  ・CPR
・気管切開  ・泣き叫ぶ子供たちに対する処置
・咳 ・くしゃみ

一般社団法人日本クリティカルケア看護学会 COVID-19重症患者実践ガイドより引用

防護について

感染防御については、一般社団法人日本クリティカルケア看護学会が発刊しているCOVID-19重症患者実践ガイド p3-6が大変参考になります。こちらのガイドでは、個人防護着の着脱の注意点やN95マスクの必要性および確認方法などが詳しく説明されています。

また、⼀般社団法⼈⽇本環境感染学会の医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイドでも、防護着の着脱方法が写真で解説されています。加えて、医療従事者の曝露のリスク評価と対応表などで、新型コロナウイルス感染症患者と接触したときの状況から、無症状の医療従事者に対する就業制限などの指標が述べられています。

陰圧室って何?

新型コロナウィルスの患者さんは、陰圧室で管理しているとよく聞きますが、陰圧室の目的はご存知でしょうか。

「病院内では、室内の圧力を制御することにより、病状にあわせた病室環境を提供する必要があります。
陽圧管理とは、抵抗力の弱い患者さん(白血病など)の場合、周囲の汚染から守るために逆隔離するため、室内を陽圧にします。( 無菌病室 )。

また、陰圧管理とは、感染症などの保菌患者(SARSなど)は、室内を陰圧にすることにより隔離し、病原菌を封じ込めて、他へ汚染がひろまるのを防止します。( 陰圧隔離病室 )」

社団法人 日本空調衛生工業協会ホームページより引用

そして、院内では室内の使用目的にあわせて室内環境がそれぞれ定められ、以下の表に示すとおり病院設備基準は洗浄クラスによって分けられています。

清浄度クラスによるゾーニングと空調・換気システム
洗浄度クラス 名称 該当室(代表例) 最小風量の目安(回/時間) 室内圧 換気フィルタ
外気量 室内循環風量
高度清潔区域 バイオクリーン手術室

易感染患者病室

15

陽圧 HEPA
清潔区域 一般手術室 15 陽圧 高性能
準清潔区域 未熟児室
膀胱鏡・血管造影室
手術室手洗いコーナー
ICU/CCU/NICU
分娩室




10
15


陽圧 中性能(高性能に近い)
一般清潔区域 一般病室、診察室、待合室、救急外来、製剤室、人工透析、消化器内視鏡、材料部、手術回復室、X線撮影室、理学療法室

新生児室

等圧
陽圧
中性能
汚染管理区域 RI管理区域

細菌・病理検査室
感染症用隔離病室
隔離診察室、内視鏡室

解剖室

全排気




全排気


12
12

12

陰圧 中性能
拡散防止区域 患者用便所、使用済みリネン室、汚物処理室、霊安室 10 陰圧 規定なし

日本医療福祉設備協会 病院設備設計ガイドライン HEAS-02-2013 p20より抜粋

この表から、手術室や血管撮影室、ICUなどは、抵抗力が低下している患者から病原菌を近づけないように陽圧管理することになり、逆にRI検査室は、放射性同位元素の汚染を広げないために陰圧管理されています。したがって、新型コロナウィルスの患者さんが陰圧室に入室しているのは、ウィルスの拡散を避けるためということになります。

おそらくあなたの病院も血管撮影室は基本的に陽圧管理されており、X線撮影室やCT室などは等圧になっていると思います。詳しくは、自施設の施設課に確認してください。

アンギオ・IVR・心カテの対応問題

今現在、技師がとくに不安に感じていることは、新型コロナウィルス陽性の患者さんに対する血管造影検査ではないでしょうか。IVRや心カテは長時間になりますので、X線検査やCT検査と比べると患者さんと接している時間は長時間になります。IVR手技中の換気はどうするのか、X線検査やCT検査は比較的ゾーン分けして検査を実施することができますが、血管造影検査は緊急であることが多く、多人数の医療従事者が関わりますので、緊急事態でゾーン分けが困難になる可能性があります。

このような問題を抱えている中、医療資源を枯渇させることなくIVRによって患者さんを救い、かつ医療従事者を感染から守ることが求められています。

IVR

新型コロナウィルスのIVRの対応については、日本インターベンションナルラジオロジー学会がIVRについて提言していますので参考にしてください。

・新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する IVR に関する提言 第1報

特にエアロゾルが発生する手技は対応に注意が必要です。以下にエアロゾルが発生する手技(AGP)および咳を誘発するIVRの手技を示します。

<AGP>
⚫ 挿管および抜管が必要な患者
⚫ 気道吸引が必要な患者(例:気管切開患者)
⚫ 非侵襲的換気,用手換気中の患者
⚫ 心肺蘇生術を受けている患者

<咳を誘発する IVR>
⚫ 肺生検
⚫ 肺アブレーション/凍結療法
⚫ 胸腔穿刺,胸腔ドレーン,チェストチューブ挿入
⚫ 気管支動脈塞栓術
⚫ 気管支ステント留置術
⚫ 経鼻胃チューブまたは経胃チューブの留置/抜去
⚫ 胃瘻増設
⚫ 胃空腸瘻チューブ抜去
⚫ GI ステント留置

・新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する IVR に関する提言 第1報より引用

心カテ

新型コロナウィルスの心カテの対応については、日本インターベンション治療学会が心臓カテーテル検査及び治療について提言していますので参考にしてください。学会では、緊急性を要しないものや診断カテーテルについては延期を推奨しています。

・新型コロナウイルス感染拡大下の心臓カテーテル検査及び治療に関する提言

・新型コロナウイルス感染拡大下の心臓カテーテル検査及び治療に関する提言 第2報

以下にカテーテル室の管理についてのポイントを記しますが、常に最新情報を確認してください。

カテーテル室の管理

・カテーテル室の構造上の問題
カテーテル室は構造上感染予防に対して脆弱である。カテーテル室は陽圧換気であるため、換気が不十分な状況で陰圧に設定するとカテーテル室内のスタッフの感染リスクが高くなる。

右心カテーテル、心膜穿刺、IABP 挿入、ECMO 挿入などポータブル透視装置やエコー装置を用いて、可能なら陰圧管理の病室で実施することも考慮する。

準備

・感染症患者の治療をその日の最後に行う。
・ディスポーザブルシートを患者の下に敷く。
・不要な機器は可能な限り室外に移動させておく。
・入室するスタッフは業種ごとに最低限人数とする。
・呼吸管理を事前に確認する。

使用後

・一定時間(1-2 時間程度)給気と排気を調整し換気する。
・次亜塩素酸ナトリウムやペルオキソ一硫酸水素カリウム(ルビスタ)含浸クロスなど十分な環境除染を行う。
・短時間で環境消毒可能な紫外線照射装置も有効である。

日本心血管インターベンション学会 新型コロナウイルス感染拡大下の心臓カテーテル検査及び治療に関する提言 第2報より要約

換気はどのくらい必要か?

新型コロナウィルスは飛沫・接触感染する感染症です。基本的に新型コロナウィルス陽性の患者さんはマスクを装着していますので、検査実施後の検査室再使用で換気は必要ありませんが、飛沫の付着場所や接触した場所はしっかりと清拭消毒する必要があります。

そして、新型コロナウィルス陽性の患者さんのCT検査やX線検査、IVR実施後、エアロゾルの発生により室内の換気を行う場合は、結核菌の感染防止の施設基準ガイドラインに時間当たりの換気回数と結核菌の残存割合の結果が記載されていますので参考にしてください。

1時間あたりの換気回数 汚染除去時間(分)
90% 99% 99.9%
69 138 207
35 69 104
23 46 69
12 12 23 35
15 18 28
30 14
50

Guidelines for Preventing the Transmission of Mycobacterium tuberculosis in Health-Care Facilities, 1994より抜粋

環境管理の詳細は、保健医療関連施設における結核感染予防ガイドライン2005が参考になります。ほとんどのガイドラインや提言などでは、室内の換気回数は時間あたり6回以上を推奨しています。換気回数6回を上表で確認すると、99%汚染除去するのに46分かかります。また、血管造影検査室は洗浄度クラスⅢに該当するので、換気回数は時間あたり15回なので、換気回数15回を上表で確認すると、99%汚染除去するのに18分かかります。

ただし、この汚染除去の時間は理想的に設定した場合の結果です。したがって自施設の状況や構造によって換気能力は大きく異なりますので、換気時間は余裕をもって設定してください。

保健医療関連施設内の空気感染隔離室では、換気回数は6回⁄時間以上にする。もし可能ならば、換気は、
1)換気システムを調整ないし改良するか、
2)空気浄化設備(例 HEPAフィルター付きの室内空気浄化装置か紫外線殺菌灯により換気と同等の効果を得る)を利用して、12 回⁄時間まであげる。

 保健医療関連施設を新築ないし改築するときは、空気感染隔離室の換気が毎時 12 回以上になるように設計する。保健医療関連施設内の他区域の換気は、個々の設計基準を満たすようにする(リスク評価の例を参照)。もし、流量可変式の換気システムを空気感染隔離室で用いているならば、常に部屋が陰圧になるようにシステムを設計する。流量可変式のシステムは、最低の設定でも、勧告された毎時換気回数と周囲からの陰圧(0.01 インチH2O以上)が維持されるようにする。

保健医療関連施設における結核感染予防ガイドライン2005 p40より引用

機器の清掃・消毒

検査実施後の機器の清掃および消毒については、以下のサイトが参考になります。
キャノンメディカルシステムズ(外部リンク)>>
日本放射線科専門医会(外部リンク)>>
CT機器を清拭する際に注意すること

参考文献

・COVID-19重症患者実践ガイド p3-6 一般社団法人日本クリティカルケア看護学会
・医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド ⼀般社団法⼈⽇本環境感染学会
・病院設備設計ガイドライン HEAS-02-2013 p20 日本医療福祉設備協会
・新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する IVR に関する提言 第1報 日本インターベンションナルラジオロジー学会
・新型コロナウイルス感染拡大下の心臓カテーテル検査及び治療に関する提言 日本インターベンション治療学会
・新型コロナウイルス感染拡大下の心臓カテーテル検査及び治療に関する提言 第2報 日本インターベンション治療学会
・保健医療関連施設における結核感染予防ガイドライン2005
・診療放射線分野における感染症対策ガイドライン 日本診療放射線技師会

・柳宇 院内感染予防における空調・換気の設計法
・新型コロナウイルス感染症疑い患者撮影に対する感染症対策 日本医学放射線学会
・医療機器を介した感染予防のための指針 日本臨床工学技士会
・中島由槻 結核院内感染対策 特に施設面について

 

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