東芝は、1975(昭和50)年にEMI社と販売契約を結び、日本初の頭部用CT装置を販売した。発売当初は頭部専用装置で、胸部や腹部は撮影することができなかった。それが開発者たちの努力によって、3年後の1978(昭和53)年に日本初の全身用CT装置「TCT-60A」が国立がんセンターに導入された。その後、CT装置はさらに改良を重ね、2009年6月20日、320列Area Detector CT 「Aquilion ONE」の開発で経済産業大臣賞を受賞した。この装置は、1回転0.35秒で160mmの範囲の撮影が可能であり、世界で初めて人体臓器を動きある立体画像として鮮明に映像化する4次元X線CT撮影に成功している。加えて、この装置の性能は、撮影時間の短縮、被ばく量の低減、造影剤量の低減においても有利に働く。これらの輝かしい開発過程を振り返るだけでも、東芝メディカルの技術や開発スタッフの能力は大変素晴らしく、CT装置の開発においては、今後も世界の第一線で活躍していくもの考えられる。
しかし、CT装置のこれからの将来性を考えたとき、X線を人体に照射している限り、人体に対する被ばくをゼロにすることは不可能である。結局、撮影速度と画質の向上、被ばくの低減が開発の柱になるのだが、何か革新的な技術、例えば人体の生理現象や機能を捕らえられるような新しい技術が誕生しない限り、CT装置の将来性はMRIほど期待できないと考えられる。MRI装置の進歩はめざましく、CT装置の開発速度の比ではない。
今回の東芝メディカルの売却に際して、東芝が重粒子線がん治療システムの事業を手放さなかったところをみると、東芝はヘルスケア事業の柱に、CT装置はもはや眼中になかったのかもしれない。このところ、がん治療システムの進化が著しく、東芝は国内の医療施設で受注実績を着実に伸ばしてきている。これを足がかりに海外展開も視野に入れている。この重粒子線治療システム事業の根幹を担っているのが、患者に対して360度の任意の方向から重粒子線を照射できるガントリーである。重粒子線の制御に超伝導磁石を使うことで、大幅な小型化と軽量化、そして省電力化に成功した。装置サイズや稼働コストの低減により、東芝は重粒子線治療装置の普及を目指している。
ただ、国内の重粒子線治療が順風かといえばそうもいい切れないところがある。2016年1月14日に厚生労働省が開いた先進医療会議で、粒子線治療についてこれまで、先進医療の対象から外すことを含めた検討がなされてきた。しかし、今回は一転、先進医療適用を維持し、一部症例には保険を適用することが決定した。このことからも、重粒子線治療の保険の動向次第では治療施設の運営に大きな影を落としかねない危険もはらんでいる。今後、東芝が重粒子線治療システムで東芝メディカルの穴を埋めるだけの事業として展開していくためには、がん治療に対して、重粒子線治療と他の治療方法との優位性を示すことが重要である。
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