今回は、最近話題になっている術後のガーゼ遺残のX線撮影についてお話します。

残存ガーゼのX線撮影は、術後のルーチン検査として広く実施されていますが、その理由はガーゼカウントとX線画像の確認を組み合わせることでより効果的にガーゼ遺残事故を防ぐことが目的です。しかし、日本医療機能評価機構で報告されているように、手術に伴う異物遺残事例は現在も後を絶ちません。

なかでもX線検査を実施しているにも関わらず、ガーゼを見逃してしまうという事例がけっこうあるんです!

ガーゼが画像に全く写っていなかったのならわかりますが、事故後に見返してみればしっかり写っていたという事例があります。

ガーゼの遺残を防ぐことを目的に始まったX線検査でガーゼを見逃していては、いったい何のために検査しているのかわかりませんw。

どうしてガーゼを見逃してしまうのでしょうか?

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残存ガーゼの多くはガーゼカウントが合っていた!?

実は、手術終了時に撮影したX線画像でガーゼを発見をできなかった事例の多くは、閉創前のガーゼカウントが合っていた事例です。

ガーゼ遺残事故事例57件中、48件で閉創前のガーゼカウントが合っていました。
ガーゼが残存しているのにガーゼカウントが合っていた原因としては、

  • ガーゼが残存した状態で丸まったガーゼを目視でカウントした
  • ガーゼをカウントする機械の使用時、ガーゼ以外の血餅などをカウントした
  • カウント対象外のX線造影材なしのガーゼをカウントした
  • カウント後、閉創している途中でガーゼが混入した
  • などがあります。

    日本医療機能評価機構 医療安全情報(No.152)「手術時のガーゼの残存①-ガーゼカウント-」より引用

    つまりこのような結果から、

    ガーゼカウントはまっったくあてにならない!

    ということです。

    X線検査しても残存ガーゼが発見できない!?

    さらに先で取り上げた事例57件中、43件で手術終了時にX線撮影が実施されています。
    しかし43件中、26件のX線画像でガーゼを発見できなかったのです。

    X線画像でガーゼを発見できなかった原因は、

  • カウントが合っていたため、ガーゼが残存していないという前提でX線画像を確認した
  • ガーゼが骨と重なっていた
  • 挿入したドレーン・チューブに注目して確認した
  • 画面が小さく、X線画像を確認しづらかった
  • X線撮影の範囲にガーゼが残存した部位が含まれていなかった
  • 日本医療機能評価機構 医療安全情報(No.153)「手術時のガーゼの残存②-X線画像の確認-」より引用

    最後の『X線撮影の範囲にガーゼが残存した部位が含まれていなかった』は論外ですが、

    このような結果を踏まえて、日本医療機能評価機構は、

  • ガーゼカウントが合っていてもガーゼが残っている可能性があるという認識でX線画像を確認する。
  • X線画像は、大画面モニタを用いて、輝度の変更を行い確認する。
  • X線画像で確認しやすいガーゼの導入を検討する。
  • 日本医療機能評価機構 医療安全情報(No.153)「手術時のガーゼの残存②-X線画像の確認-」より引用

    という注意喚起をしています。

    つまり我々技師は、

    ガーゼカウントが合っているからガーゼはないだろうという考えは今すぐ捨てて、ガーゼカウントが合ってないから呼ばれたという気持ちで撮影に向かえ!

    ということです。

    そもそもX線画像で残存ガーゼがどういう風にみえるか知らない

    日本医療機能評価機構は、

    しっかりX線写真で確認しろ!

    とはいいますが、そもそも残存ガーゼがX線でどういう風にみえるのか知っていますか?

    杉下氏らの調査では、経験年数が3年以上の技師であれば、ガーゼは100%認識でき、経験年数2年未満の技師で認知率が低かったと報告しています。

    したがって、新人技師が手術室に撮影に行く前に、必ずガーゼの遺残症例をみて画像に慣れておく必要があります。

    ガーゼが脊椎と重なっている症例は慣れていないと見つけるのが難しく、逆に術前の塞栓コイルやドレーンチューブなどは偽陽性として間違ってガーゼと認識してしまうこともあります。

    最後はチームワーク!

    さらに杉下氏らは、ガーゼ遺残防止策として、

    診療放射線技師はカウント状況を共有した上でX線撮影を行い、まず画像処理時にモニターで異物遺残の有無確認をした後、画像を転送する。執刀医・助手医師・看護師を含めた複数人での遺残確認を必ずモニター正面で行い、多職種間で互いに連携し、チームとして共通認識を持った確認体制を再構築した。

    手術に伴う異物遺残再発防止に向けた検討と対策より要約

    このような対策後、杉下氏らは、技師が術後のX線画像でガーゼの残存に気づき、ガーゼ遺残事故を未然に防ぐことができたと報告しています。

    やはり複数人でしっかりと確認することは非常に効果的な対策であるといえますが、いくら効果的なシステムを構築したところで、常に何のためにやっているのか考えないと、結局は他人任せになってしまい、対策が形骸化し、形式的な儀式になって再び事故が起こってしまいます。

    医師の確認だけでなく、我々技師がガーゼ残存を防ぐ最後の門番としての意識を持って撮影に望むことが大切です。

    参考文献

    ・日本医療機能評価機構 医療安全情報(No.152)「手術時のガーゼの残存①-ガーゼカウント-」
    ・日本医療機能評価機構 医療安全情報(No.153)「手術時のガーゼの残存②-X線画像の確認-」
    ・杉下しのぶ,田畑信幸,中尾徹弘 他. 手術に伴う異物遺残再発防止に向けた検討と対策. 日本診療放射線技師会会誌 2017.vol.64 no.780 1320-1327

     

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