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 近年AI(Artificial Intelligence)技術が活況を帯びている。今年の春のITEMでも各社のブースをみれば、大企業から中小ベンチャーまでAIを売りにした商品を並べ、AI技術の紹介コーナーでは人だかりができて、ゆっくり時間をかけてみることができないほどであった。

特に診断支援技術は一度使うともう手放せないという医師もいるほど実用化され始め、今後AI技術は医療業界で益々広く浸透していくものと思われる。

AIというとコンピュータ将棋を思い浮かべる人が多いと思う。将棋ソフトPonanzaが昨年の電王戦で名人に2連勝したことは記憶に新しい。

実はこの名人に勝利したポナンザにはディープラーニングが導入されていなかったと聞いている。現在ではポナンザにディープラーニングが搭載され、さらにレベルアップされているらしいのだが、このディプラーニングによってAIの技術は大きな変革を遂げ、次のステージにあがるきっかけになったのである。

今回は、AIが我々の画像診断領域に導入された場合、今後どのような展開になっていくのか考えてみた。

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いままでのAIとは

まず、今までのAIができたことといえば、

いわれたことをやるだけであった。

つまり、X線撮影装置でいえば、フォトタイマーみたいなものがこれに該当する。フォトタイマーは、あるしきい値になればX線を止め、しきい値になるまでは、X線をだす。また、エアコンの温度設定などもこれになる。いわれたことをやりましたという感じ。

それからAIが少し進化して、様々なパターンに対応できる機能を搭載してきた。X線画像では、CRのEDR(Exposure Data Recognizer:自動感度補正機能)、CTでいえば、3DCTのワークステーションのベッド消去機能や骨選択がこれに該当する。またお掃除ロボットなんかもこれになる。しかし、この段階のAIはまだ無数にあるパターンを出来る限り仕分けしているだけで、基本的には元々あったルールにしたがって動いているに過ぎない。ルールに基づいて対応できる領域を広げている段階で、自ら学習するには至らない。

そして、グーグルの検索エンジンを代表するAIから、少し装いが変わってきた。そう、自らパターンを学習して最適な選択肢を提示するようになった。ちょっとしたスペルの間違いでも、あなたが欲しいワードを予測して提示してくれる機能は本当に便利だと思う。

さあ、このあたりからディープラーニングが登場する。

ディープラーニングによってAIはさらに、ルールやパターンを自らの設定したものに基づいて判断できるようになった。もはや、我々がルールを与えなくても自分で発見して分類し、ルールを作り上げてしまう。

参考文献
【5分でわかる】人工知能(AI)とは?概要や種類をわかりやすく解説(侍エンジニア塾ブログ編集部)

こうなってくると画像診断の領域にAIを使うとどうなってしまうのか?

最終的には人が理解できない画像になるのか!?

AIによって画質が評価される

 所詮人が検出(認識)できる可視領域は限られている。X線画像では、我々は画像が持っているデータの一部分のみをみているにすぎない。そこでX線画像では、ダイナミックレンジ圧縮して、無理やり可視領域にデータを収めたり、濃度を変更して人が検出可能な可視領域にデータを合わせる作業をする必要がある。そうしなければ、人は検出も診断もすることができない。CT画像もそう。骨疾患は骨条件に、肺疾患は肺野条件にしないとみたいものをみることができない。

コンピュータの世界では、可視領域なんてものは存在しない。もっているデータすべてが可視領域である。今まで我々が求める画質は、可視領域でノイズが少なく、鮮鋭度が高く、コントラストがよい画像が一般的によい画像とされてきた。画質と被ばくはある程度相関し、技師は診断でき得るぎりぎりの画質を常に追求してきた。うまい技師は、検査目的によって画質を変更し、医師から信頼されている技師もいた。

AI診断になると画質はどうなるのだろう。

コンピュータが求める画質はそれが検出できるかできないか。我々が可視領域で判断できなくても、AIが検出できれば、画質はそれでよいということになる。

画質がAIによって決められる。

DRLsは全然違うものになることだってあり得る話だ。

そんなことが起こるかもしれない。

人を排除するとAIはもっと自由に柔軟な発想で異常信号を検出することができる。

例えばMRIならk空間の状態で診断される。信号収集された形で検出できる病変があれば、そのまま検出されるし、まだ未知の検出方法が、宝の山がいっぱい眠っている可能性があるが、もはや人では見つけることができない世界が広がっている。

将棋の世界にAIが入ってきて、いままで誰も思いつかなかった戦術が生み出され、新たな棋譜が棋士を悩ませている。そして、開発したプログラマーでさえ中で何が行われているのかまったく理解できない。

同じようなことが、医療業界、画像診断にも起こる可能性がある。

AIにしか検出できない病変

AIにしか検出できない異常信号…AIが異常だといっているが、それが何を表しているのか?

結果しかわからないが、確かに普通とは違うものがある。

実は似たような状況になってきている分野がある。放射線治療である。
IMRT(強度変調放射線治療)は、targetとOAR(organ at risk)を決めれば、後は最適な照射プランをコンピュータが計算して表示する。
我々が理解できることは、線量分布とDVHをみて過小線量、過剰線量、最適線量を判断するだけである。
一つずつのセグメントをみても、もはや何がどうなっているのか全くわからない。
我々ができることは、コンピュータが計算したことを、ファントムを使って実際に照射してみて、計算結果が合っていることを確認することぐらいである。

人ができることは何か?

AIは勉強家である。人と違って休むことなく24時間四六時中勉強できる。将棋のAIでは、数千億局くらいずっと対戦している。

最初は決められたルールで動いていたものが、自らルールを作り、新しいことを発見し始める。

AIにそこまでやられては、人ができることはもうないかもしれない。

グーグルホームにタイマー機能があるが、グーグルホームに

『オッケーグーグル。5分経ったら教えて』というと、

『5分ですね、スタート』といって、5分後にお知らせしてくれるもので、大変便利な機能である。

しかし、残り数秒のところで残り時間を尋ねると、

『残り1秒です』といってしまう。

そう、人なら残り1秒は、『もう時間です。』という。人はセリフをいっている間にもうその時間は過ぎていることまで理解することができるがグーグルホームは理解できない。

また、AIはレストランで美味しい店と美味しくない店を理解できない。AIは分類することは得意であるが、その意味までは全く理解できていないのである。

そう、まだまだAIは意識、その意味を理解するところまでには至っていない。

現在のディープラーニングでは、与えられた情報の中でしか学習できないが、今後AIが意識を持ち(人工意識)、自らが情報を選択し判断するようなことになれば、また違った世界が広がる可能性があるかもしれない。

 

放射線技師.com