労働と賃金に関する法律は、社会人にとって大切な事柄であるはずなのに、学校では全く教えてくれません。
労働基準法第1条では、’労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。’とあります。つまりこの法律は、労働者として生活を営むための最低条件を定めており、我々は、病院(事業主)がしっかりとこの条件を遵守しているか確認する必要があります。
今回、診療放射線技師の勤務で労働基準法に関係する内容をまとめてみましたので、是非参考にしてください。
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宿日直・当直
’宿日直(当直)業務とは、軽微な労働であり、原則として定時的巡回、緊急文書の収受、非常事態発生の際の準備等に備えるものです。したがって宿日直業務は通常の業務の延長として扱ってはなりません。宿日直勤務中にX線撮影やCT検査、血管造影検査等の本来業務に従事することがあれば、時間外労働となり、病院(事業主)は宿日直手当に割増し賃金を加算した賃金を労働者に支払わなければなりません。
また、宿日直勤務を行うには労働基準監督署からの許可が必要です。許可条件は以下の通りです。
- 常態としてほとんど労働する必要がない勤務であり、病室の定時巡回等の特殊な措置を要しな
い軽度の、又は短時間の業務を行うことを目的とするものに限る。 - 宿直勤務については、相当の睡眠設備を設置しなければならない。また、夜間に充分な睡眠時
間が確保されていなければならない。 - 宿直勤務は、週1回、日直勤務は月1回を限度とすること。
- 宿日直勤務手当は、職種毎に、宿日直勤務に就く労働者の賃金の1人1日平均額の3分の1を
下らないこと。
この基準を満たさなくなった場合には、労働基準監督署の判断で許可が取り消される場合があります。
許可が取り消された場合には交代制勤務(夜勤)への移行が必要となります。’
労働基準法の基本的知識 Q&Aより引用
参考文献
昭和22.9.13 発基17号
夜勤
夜勤とは夜から始業し次の日の朝まで勤務することで、基本的には昼間の勤務と変わりなく休憩時間を除けば全て実働時間と見なされます。法律的には法定労働時間内の勤務ということになり、法定労働時間であるため、原則1日8時間、1週40時間の中で夜間帯に勤務します。
賃金的には標準的な日当に夜勤手当が付き、22時~5時の勤務分は深夜割増し手当として2割5分支払われます。労働基準法 第37条第4項(深夜労働手当)
オンコール体制
’労働基準法では、労働時間以外は上司の指揮命令は受けないとされています。つまり勤務時間外においては上司からの緊急登院の命令を受ける法的根拠はありません。
ただし、上司の指揮命令下にあるような状態にするには、例え自宅における待機であっても宿日直手当と同様に基本賃金の3分の1以上の手当を支払う必要があります。’
労働基準法の基本的知識 Q&Aより引用
‘オンコール体制は当直のように手当を支給するべきかどうかは、専門家の間でも意見が分かれているそうです。’
振替休日と代休の違い
「振替休日」とは、予め休日と定められていた日を労働日とし、そのかわりに他の労働日を休日とすることをいいます。これにより、予め休日と定められた日が「労働日」となり、そのかわりとして振り替えられた日が「休日」となります。従って、もともとの休日に労働させた日については「休日労働」とはならず、休日労働に対する割増賃金の支払義務も発生しません。
一方、いわゆる「代休」とは、休日労働が行われた場合に、その代償として以後の特定の労働日を休みとするものであって、前もって休日を振り替えたことにはなりません。従って、休日労働分の割増賃金を支払う必要があります。
これらの違いについて、ポイントは事前予告があるかないか。
つまり、あらかじめ休日と労働日を交換しておく、というのが「振替休日」です。
「代休」は、休日労働が行われた後に、その代わりとして他の「労働日」を「休日」にすること。
さらに詳しく知りたい方はこちら(外部リンク)>> 働き方改革研究所 「振替休日」をとるか、「代休」をとるかでお給料が変わる!?――意外と知られていない「休日出勤」の仕組み
お昼休みの電話対応や緊急撮影
まず“休憩時間”について説明します。休憩時間は労働者が権利として労働から離れることが保障されていなければなりません。従って、待機時間等のいわゆる手待時間は休憩に含まれません。
昼休み中の電話対応や緊急撮影は明らかに業務とみなされますので、勤務時間に含まれます。
従って、昼当番で昼休みが費やされてしまった場合、病院(事業主)は別途休憩を与えなければなりません。
緊急体制・対応とは
緊急とは、重大で即座に対応しなければならないこと。また、そのさま。(出典:デジタル大辞泉)
- 使用例
- 緊急対策本部:極めて激甚な災害が発生した場合に、内閣府に設置する組織。
- 緊急地震速報:地震の発生直後に、通知する予報・警報。
つまり、緊急体制・対応とは、何かが起こったときに実行する体制や対応のことをいいます。
何か事が起こる前に異常を発見することを目的とする経過観察(フォローアップ)検査は、本来、緊急体制・対応には含まれません。
しかし、緊急体制・対応の中で、技師がどこまで対応するか、どこまで撮影するか、検査するかは病院ごとに考え方が異なります。
始業前の清掃や撮影準備
先輩技師からこんなこといわれたことありませんか?
『9時から検査開始するのであれば、9時から始められるように前もってIPの清掃や、撮影装置のウォーミングアップ、点検をしておくことは当然だ』
このセリフ、始業時間が9時からであれば労働基準法に違反している可能性があります。
どういうことかというと、労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間です。
つまりこの場合、始業時間前のIPの清掃や、撮影装置のウォーミングアップ、点検などは労働時間に該当するので、始業時間前の労働時間分だけ終業時間を早めるか、時間外労働として残業手当を支給する必要があります。
指揮命令下にあるかどうかの判断は、実際に口頭等で直接命令される場合だけではありません。
例えば、社員が「これは『○○しなさい』という意味だな」と察し、○○をやらざるを得ないような雰囲気に仕向けているような場合であれば、「暗黙の指示」とみなされる可能性があります。
その他に、就業時間外に実施される強制参加のカンファレンス・勉強会・研修なども労働時間に該当します。
また、白衣に着替えることが義務化されている場合は、その着替えるための時間も労働時間に含まれます。
これらの問題については、過去の最高裁の判例(三菱重工長崎造船所事件)が有名です。
概 要
・会社は船舶等の製造・修理等を業とし、従業員らは、その業務に従事していた。
・従業員らは、始業前に更衣(保護具、工具等の装着)を済ませ体操をする所定の場所にいること、副資材や消耗品などの受け渡しを行うこと、粉じん防止の散水すること等が義務付けられていた。
・従業員らは、これらの始業時間前の時間も労働時間であるとし、これらの行為に要した時間について、割増賃金の支払を求めて提訴した。
・裁判所は、これらの時間は労働時間に該当すると判断した。
まとめ
近年、診療放射線技師の勤務は、病院の規模や診療科の違いによって多様化しています。また、配属される部署(モダリティ)によっても異なります。自分の勤務先がどのような規則で勤務を定めているのか確認しておくことはもちろんのこと、事業主(病院)が、労働基準法に違反していないか確認することは、ご自身の心と身体を健康に保つ上でも大切なことです。
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