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放射線治療で耳が痛くなるもの…

LQモデル 生物学的等価線量BED α/β比

なんとなくわかったような気になっていますが、初学者に説明を求められると上手に説明できず…

やっぱりわかってないような…

今回は放射線治療で治療効果の考え方のもととなっているLQモデル、生物学的等価線量BED、α/β比についてまとめてみました。

 

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直線-二次曲線モデル(LQモデル Linear Quadratic Model)

現在の放射線治療では、放射線の生存曲線について、哺乳動物細胞の標的は2重鎖構造をもつ遺伝子DNAであるという考え方から、直線-二次曲線モデル(LQモデル Linear Quadratic Model)が受け入れられ、利用されています。

これは、1粒子による2本鎖切断の発生率をαとし、2粒子による2本鎖切断を起こす確率をβの平方根とすると、αは吸収線量Dに比例し、βは吸収線量の2乗(D2)に比例すると仮定しています。


まとめると、

  • 放射線の細胞死は、1粒子(1ヒット)による2本鎖切断と2粒子(2ヒット)による2本鎖切断がある。
  • 1粒子(1ヒット)による2本鎖切断は、吸収線量に比例する(一次項:α)と仮定する。
  • 2粒子(2ヒット)による2本鎖切断は、吸収線量の二乗に比例する(二次項:β)と仮定する。
  • ということです。

    そうすると、致死率Iは

    I = αD + βD2

    で表されます。

    LQモデルによる生存率曲線

    LQモデルによる生存率Sは、

    S = exp (-αD-βD2)

    で表されます。

    ここで、αD=βD2となる線量値(Dに比例する1ヒットの細胞死と、D2に比例する2ヒットの細胞死の数が等しくなるところ)は、D=α/βからα/β比とよび、生存曲線を特徴づける変数であると考えられます。

    そして、生存率曲線は、α/β比が大きいとき(1ヒットの細胞死が多いとき)直線に近づき、α/β比が小さいとき(2ヒットの細胞死の数が多いとき)肩が深く(大きく曲がる)なります。

    α/β比の値により,晩期反応系正常組織と早期反応系組織・腫瘍に分けることができ、一般に、早期反応系組織・腫瘍は、α/β比が大きく(10Gy)、晩期反応系正常組織は、α/β比が小さい(1〜4Gy)といえます。

    エックス線に対する正常組織のα/β値

    エックス線に対する正常組織のα/β比の値を掲載します。
    ・早期反応
      皮膚 9.4-21
      毛包(脱毛) 5.5-7.7
      口腔粘膜 7.9
      大腸 7.1-8.4
      睾丸 13.9
      脾臓 8.9

    ・晩期反応
      脊髄 2.5-5.2
      脳 2.1
      口腔粘膜 7.9
      眼(白内障) 1.2
      肺(肺臓炎) 2.1-4.3
      腸 3.0-5.0
      皮下組織 1.5

    生物学的等価線量 BED(Biological effective dose)

    先ほど解説したα/β比ですが、

  • α/β値が小さいと1回照射時の生存曲線の肩は大きく曲がります。これは、分割照射を行った場合、等効果線量の増加が大きくなり、障害は減ります。
  • α/β値が大きいと1回照射の時の生存曲線の肩は直線的になります(あまり曲がらない)。これは、分割照射を行った場合、等効果線量の増加が小さく、障害はあまりかわりません。
  • このように、α/β比の値は放射線治療において、分割照射の効果因子として考えることができます。

    放射線によってダメージを受けた細胞は、修復システムによって経時的に回復します。
    分割照射を行ったとき、n回の分割照射後の生残率Sは、

    S = Exp [ -n (αd+βd 2 ) ]

    で表されます。

    そして、

    指数部分を線量(Gy)単位になるように変形すると、生物学的等価線量 BED(Biological effective dose)は


    BED = nd(1+d/α/β)
      n: 照射回数 d: 1回線量

    となります。

    したがって生物学的等価線量 BEDは、放射線生物学や放射線腫瘍学のLQモデルに基づき、分割照射による細胞生存率への影響を加味した指標ということになります。そして、異なる線量や照射回数を用いたときの放射線治療の効果や影響は、この生物学的等価線量BEDにより比較可能となります。

    例えば、緩和照射で用いられる線量として、総線量30Gy/10fractionsと総線量20Gy/5fractionsがあります。1回線量はそれぞれ3Gyと4Gyです。ここで細胞の早期の反応を調べるために、仮にα/β比の値を10とすると、BED10はそれぞれ39Gyと28Gyになります。この両者のBEDの違いをみて…

    で?どうなの? べつにBEDで比較しなくても…総線量で比較するのとかわらない気が…

    そうですよね〜これじゃあピンときませんよね〜

    それじゃあ、これならどうでしょう。

    定位照射の総線量48Gy/4fractionsと通常分割照射の60Gy/30fractionsでは、1回線量はそれぞれ12Gyと2Gyです。先ほどと同様にBEDを計算すると、BED10はそれぞれ105.6Gyと72Gyになります。総線量では定位照射が通常分割照射より小さくなりますが、BEDでは定位照射の方が大きくなります。したがって、両者の腫瘍に対する放射線の効果を比較すると、定位照射の方が通常分割照射より高い効果が得られると考えられます。

    2Gy等価線量換算値 EQD2(Equivalent dose)

    このようにBEDは、異なる線量や照射回数を用いたときの放射線の効果や影響を比較することが可能になりますが、放射線治療の晩期障害について考えると、このままでは使い物になりません。なぜなら、放射線治療の晩期障害は、1回照射線量2Gyで治療したときの影響を基準にしているからです。つまり、放射線治療の晩期障害について考えるためには、BEDの値を用いて、2Gy等価線量換算値 EQD2(1回照射線量2Gyで治療したときのBEDが等価となる線量)に換算し直す必要があります。

    例えば、8Gy/1fractionで治療した場合の2Gy等価線量を考えてみましょう。ここでのα/β比の値は、早期反応10、晩期障害2とします。

    8Gy/1fractionで治療した場合のBEDは、BED10=14.40Gy、BED2=40Gyとなります。

    そして、1回照射線量2Gyで治療したときの上記のBEDと等価となる線量は、それぞれ12Gyと20Gyになります。

    ???の人は、総線量12Gy/6fractionsと総線量20Gy/10fractionsのBEDをそれぞれ求めてみてください。8Gy/1fractionのBEDと一致することがわかると思います。

    したがって、8Gy/1fractionで治療したときの晩期障害は、通常分割照射(1回照射線量2Gy)の正常組織の耐容線量表を使用するとき、総線量20Gyとみなして比較、判断することができます。

    このように、放射線治療の晩期障害は、BEDから2Gy等価線量に換算して考える必要があります。BEDの値を使って通常分割照射の正常組織の耐容線量を比較すると、値が大きくなり過ぎて、誤った評価となるので注意してください。

    以上、LQモデル、生物学的等価線量BED、α/β比についてまとめてみましたが、誤った記載があった場合は、直ちにご指摘くださいませ。

    参考サイト
    ATOMICA
    被ばく線量に応じた細胞の反応にかかわる諸モデル (09-02-02-09)

    LQモデル BED EQD2計算アプリ

    放射線治療で利用されるLQモデルに基づいた生物学的等価線量BEDと2Gy等価線量換算値EQD2の計算アプリを開発しました。
    どうぞご利用ください。

     

    放射線技師.com