6a1377b4ff1accbc6a2e603b99b3e72a_s クリニカルラダーという言葉、最近よく耳にするようになったと思います。すでに看護の現場では、当たり前のように使われている制度ですが、その効果が認められ、診療放射線技師の現場でも制度導入の動きが活発になってきています。
 2016年1月に日本放射線技師会が、『生涯教育システムにクリニカルラダーおよびマネージメントラダーを導入することに関する意見の募集』を行いました。その募集ページのなかで、クリニカルラダーを利用する目的とねらいが述べられています。

<新生涯教育システム構築における基本構想>
1)生涯教育全体を網羅するクリニカル・ラダーを構築する。
2)診療放射線技師全体のボトムアップを目指す。
3)現存の生涯教育システムを継承し、資格認定、カウント等を継続する。
4)現生涯教育システムにおいて努力している会員が不利益にならないシステムを構築する。
5)臨床現場の実践に対して評価ができるシステム
6)各施設の昇任等に利用できるシステム病院協会等へ働きかけを行う。
7)管理職およびこれから管理職を目指す中堅を対象としたマネージメント・ラダーを構築する。
(新生涯教育システム概要からの引用)

 当サイトでも診療放射線技師の技術管理は評価シートを使いましょうの記事で、評価シートを使用した技術管理は、診療放射線技師の技量を客観的に評価するためには欠かせないものであると、その利用をオススメしています。そして、日本放射線技師会でもクリニカルラダー制度の検討を始めたのですが、「クリニカルラダーってそんなにいいの?」と思いますよね。

 いいえ、決してよいことばかりではありません。今回はまず、「クリニカルラダーとは何ぞや?」という方に、クリニカルラダーについて簡単に説明し、その後にクリニカルラダーの問題点についてお話したいと思います。
 
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クリニカルラダーとは

 クリニカルラダーとは、看護技術をいくつかの段階に分けて教育指導して行く看護学者パトリシア・ベナー博士の提唱する習熟度段階です。ベナー博士は、ドレイフェス・モデルを参照し、臨床技能の習得段階に関する理論を構築しました。ドレイフェス・モデルは、人が技能を習得し熟練するには,初心者レベル、少し経験を積んだ新人レベル、一人前レベル、中堅レベル、達人レベルの5段階を経るとしています。そして、レベル別到達目標を細かく分けることで、何が到達できていないのか、何が不足しているか等の問題点や改善点が明確になり、より客観的に技術を評価することができます。1段1段目標に向かって、階段を登っていくことから、クリニカルラダーとよんでいます。

さらに詳しく知りたい方は、以下のページが参考になります。
もう一度学ぼう看護理論

クリニカルラダーの問題点

 クリニカルラダーを理解し始めると、なるほど診療放射線技師にも使えそうだと思います。クリニカルラダーは、放射線技術の習得度を客観的に評価できるからです。しかし、待ってください。クリニカルラダーにも罠が潜んでいます。クリニカルラダーは決して万能ではなく、効果を期待して、安易に臨床現場に導入すると、期待した効果を得ることができないばかりか、問題をさらに悪化させる要因になることもあります。

 もっともよく犯す過ちは、欲張った評価項目を作成してしまうことです。診療放射線技師は技術職であるが故に、評価項目がついつい細かくなりがちです。評価項目が細かすぎると、次の段階に進む時間、ステップアップの時期をかえって遅くする恐れがあります。

また、実際の臨床現場で使わないような不要なものをクリニカルラダーに多く取り入れるのも問題です。作成したクリニカルラダーが実際の臨床と大きく乖離していると、それはやがて使われなくなってしまいます。同じように、クリニカルラダーの目標を高く設定しすぎるのも、やがて使われなくなってしまう原因となります。

 そもそもクリニカルラダー発祥の地は米国です。米国の診療放射線技師の資格制度は、モダリティで細分化され、臨床を行う技師と研究を行う技師はきちんと分けられています。米国の職場では、技術の徹底したマニュアル化で、技師間の技術格差をなくすことによって、クリニカルラダー制度がうまく機能する下地が整っている環境にあるといえます。

 しかし、日本ではどうでしょうか? 日本人は昔から職人気質的なところがあり、その類まれな気質によって、放射線技術学は世界でも類のない学問として発展してきました。そのような中に、クリニカルラダーは、日本風土にそのままでは馴染めないといえます。安易に作成されたクリニカルラダーは、日本人の良さが削ぎ落とされた金太郎飴技師が製造される危険性をはらんでいます。

 デジタル的に評価項目を設定してしまうと、それだけが一人歩きし、それだけできれば昇進できると短絡的に考えるものもでてきてしまう。だからといってなんでも欲張りすぎると本質が見えないものになってしまう。クリニカルラダーは諸刃の剣。作るものの技量が試されます。

 クリニカルラダーを作るときによく考えてみてください。あなたの職場にマッチしたものでないと、導入後のよい効果は期待できません。バランスよく評価項目を設定することが、バランスのとれた技師を育みます。この考えが大切で、もっとも重要なことだといえます。クリニカルラダーにより客観的に診療放射線技師としてのレベルが示されますので、それが評価に影響を与えることにもなります。クリニカルラダーの利点と問題点をきちんと理解してから導入しましょう。

 

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