妊婦  私は今から5年前に出産を経験しました。当時、女性が出産してそのまま正職員で働く人はごく少数でした。そして、女性の診療放射線技師が妊婦になって真っ先に問題にされるのが、夜勤をどうするか。この問題に対するストレスの度合いは、その時の上司の考え方にかなり左右されます。私が働いていた病院は、妊娠したことを職場にいうと、夜勤が免除されるので、そこは恵まれていたと思います。安定期になるまで妊娠のことを職場にいわない人がいますが、一番危険な妊娠初期に、資格があるからと、すべての仕事を男性と同じようにこなそうとするのは、妊娠中の体に大きな負担がかかります。さらに、私たち診療放射線技師は、放射線被ばくとつねに隣り合わせで仕事をしています。事故が起きない限り、大量に被ばくすることはありませんが、ないとはいい切れません。お腹の子供の身を守るのは自分しかいないので、子供を守るためにも、職場にはきちんと相談した方がいいのかなと思いました。

 妊娠を機に、職場を異動することもあります。それを、左遷だと受けとる人もいますが、異動することが必ずしも悪いこととは言い切れません。妊娠をすると、体が疲れやすかったり、だるくなったり、つわりも人それぞれです。周りの人たちも、ある程度、妊婦に対して気を使ってはくれますが、やはり仕事をする一人の人員としていると、ついつい妊婦であるということを忘れられてしまいます。私の職場には、幸いなことに”妊娠は病気じゃないから特別扱いする必要はない”という人はいませんでしたが、体調が少し優れなくても、普通に働くのは当たり前という雰囲気はありました。このことは、妊娠していても今までどおりに働ける人は気付かないかもしれません。

 妊娠を乗りきり、無事に出産しても、その後の働き方でまた悩みが生じてきます。産後はどこまで休むか。時間短縮をとるかどうか。仕事復帰後、夫がどこまで家事を分担してくれるか。まず、どこまで休むかですが、昔の職場事情だと、最長1年でした。私は1年丸々休んだ後、認可保育園には空きがなかったため、娘は無認可の保育園に預けてフルタイムで働きました。娘を預けた保育園には延長保育はなく、さらに職場には時短勤務もなかったので、このまま仕事していけるのだろうかとすごく不安でした。仕事と育児と、毎日へとへとで、子供を保育園に預けるたびに、大泣きされ、1週間で3日間ぐらいは熱をだし、このまま働いていてもいいのだろうか、子供にとっていけない親なのではないかと悩みました。私の場合は、夫が率先して家事を手伝ってくれたので、このようなつらい状況を何とか乗り越えることができました。奥さんが育児休暇を取得すると、それまで家事をしていた夫が、いきなり家事をやらなくなるということを聞きます。そうすると、仕事を復帰してからも、なかなか手伝ってくれなくなり、女性だけに負担が増えるという家庭もたくさんあります。

 職場でも、女性は診療放射線技師の資格を取得している以上、男性と変わらず同じ立場にたち社会で働いていきます。いまでこそ女性が増えてきましたが、職場は男社会。母親の気持ちを分かってもらえないことも多々ありました。仕事が終わらなければ帰れず、保育園のお迎えも走っていき、お迎えが一番最後で、娘がひとりで待っていた時もありました。共働きを望む以上、少しでも家事を手伝ってくれる夫の存在は、とても大切なものです。それから、本当はもっと仕事をしたい、勉強もしたいという思いと、お迎えに間に合わないから仕事を放り出してでも帰らなくてはいけないジレンマ。そんな時、私は同期の言葉に救われました。「子育てする期間は、そんなに長くないよ。仕事を頑張る時期と、育児を頑張る時期とあっても大丈夫。そんなに焦らなくても仕事はにげないよ。母親が頑張っている姿を子供はちゃんとみていてくれるよ」と助言してくれました。今、子供は5歳になりました。下の子も生まれ、いまでは立派なお姉さんに。そんな上の子が、ママと同じように働く女性になりたいといってくれます。頑張ってきてよかったなと思いました。

 出産は女性しかできないものです。ですが、子育ては夫婦でできます。どういうスタンスで共働きをしていくか、夫婦できちんと話し合うことがとても大切だと感じました。今は時間短縮が取得できるようになり、産後働くママに少しですが優しい環境になっています。まだまだ現場では出産や育児に関しての理解が浸透していないことも多いですが、仕事の在り方、育児の在り方を考え、女性が働きやすい職場が増えればいいなと思います。

 

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