みなさん、こんにちは。
近年、診療放射線技師を目指す学生の数は増加傾向にあります。大学・専門学校の新設が進み、国家試験の合格者は毎年2,500人前後。しかし、現場では「最近の若手は何を重視しているのか分からない」「新卒が集まらない」といった声も耳にします。
今回は全国の放射線技師学生の就職活動の実態について、調査結果をもとにわかりやすくご紹介します。現役技師として新人を受け入れる立場にある皆さんにとっても、今どきの学生の視点を知ることは大きなヒントになると思います。
目次
志望は“急性期”へ集中傾向。倍率30倍超もある
就職先として最も人気が高いのは中~大規模の急性期病院です。CTやMRI、IVRなどのモダリティが揃っていること、豊富な病例に触れられることが最大の理由。学生たちは「まずはしっかり経験を積める場所に行きたい」「一通りの機器に触れ、臨床力を高めたい」と考えています。また、救急対応や手術室での業務など、緊急性の高い検査に携わる機会が多いことも、急性期病院を志望する動機になっています。
さらに、教育体制が整っているケースが多いことも魅力の一つです。多くの急性期病院では新人研修プログラムが設けられており、段階的に成長できる環境が整っています。こうした環境に惹かれ、「成長できる職場」を求めて多くの学生がエントリーしています。
特に首都圏や都市部の病院では、募集1~2名に対し対象15人超というケースも現実に少なくありません。病院によっては、筆記試験・小論文・面接といった選考を課すところも多く、競争は激化の一途をたどっています。
病院選びのキーワードは「教育体制」と「雇用環境」
学生が就職先を選ぶ際に重視するポイントは、年々多様化・個別化が進んでいます。特に、単に給与や通勤距離といった従来の条件だけでなく、「どのような環境で成長できるか」「誰と働けるか」といった人間関係や成長機会への関心が高まっています。
- 教育体制の充実(新人研修やOJTの有無、ローテーション制度、先輩技師からのフィードバック体制)
- 職場の人間関係や雇用環境(ハラスメントがないか、風通しのよさ、若手の定着率)
- ワークライフバランス(夜勤・残業の頻度、休暇取得率、育児・介護支援)
- 地元就職希望か都市就職志向か(地域医療への貢献か、都市部でのキャリア形成か)
- 将来的なキャリアアップ性(認定資格の取得支援、学会参加、転職時のブランド価値)
実際、訪問記録では「先輩技師が親切に声をかけてくれたのが決め手だった」「説明会で現場の雰囲気が明るく、質問にも丁寧に答えてくれた」といったエピソードが複数見られます。つまり、訪問時の第一印象やハードの集合力だけでなく、そこにいる人の姿勢が学生の判断材料として非常に大きな意味を持っていることが分かります。また、SNSや口コミで職場内の人間関係や上下関係について事前に情報収集する学生も多く、採用活動はもはや「スペックの提示」だけでは成立しない時代になっています。
SNSと口コミが病院選びに大きな影響
今の学生は情報収集に長けています。XやInstagram、Yahoo知恵袋、さらにはYouTubeやTikTokといった動画系SNSまで幅広く活用し、病院の評判を全方体からチェックするのは常識です。中には、現場の様子を紹介する病院の公式チャンネルや、現役技師による日常の投稿を参考にして、職場の雰囲気や働き方を見極めようとする動きも見られます。
「新人がすぐ辞める」「上司との関係がギスギスしている」といったネガティブな声をSNSで見つけ、志望病院を変更したという例も珍しくありません。一方で、「この病院は教育制度がしっかりしている」「新人が積極的に学べる環境がある」などのポジティブな評価が、志望動機を後押しするケースもあります。
このように、職場環境の透明性が今まで以上に問われており、病院側も意図的に情報発信を強化しなければ、学生の選択肢から外れてしまうリスクが高まっています。
併願禁止が就活の戦略を難しくする
放射線技師学生の多くは、いわゆる一社ずつ順番に受けるスタイルで就活を進めます。これは「同時併願禁止」のルールが根強く残っているためです。
つまり、第一志望の選考結果を待ってからでないと、次の病院を受けられないという仕組み。これにより「第1志望に落ちてから、他の病院の募集が終わっていた」というリスクもあります。
結果、応募件数は1~3件が平均で、内定数も1件が基本。選考に失敗すれば内定ゼロのまま卒業…という可能性もゼロではありません。
内定率は高水準。ただし戦略ミスは命取りになることも
とはいえ、国家試験に合格すれば最終的な就職率は98~100%と非常に高いのが実情です。年明け以降にも、予期せぬ内定辞退や人員再調整によって新たな募集が出されることが多く、「追加募集」や「補充採用」という形で採用のチャンスが生まれるケースもあります。また、既卒者枠を設けている病院も一定数存在し、国家試験合格後に落ち着いてから就職活動を再開するという選択も可能です。これにより、最終的にはほとんどの学生がどこかに就職しており、表面的な内定率では測れない柔軟な就職パターンが増えてきています。
ただし、就活中の戦略ミスには十分注意が必要です。たとえば、ある学生は「大病院ばかり狙ってすべて落ち、結果的に3月になってから地方の小病院に滑り込んだ」と語っており、人気病院に絞った“一点突破型”の戦略が必ずしも奏功するとは限りません。加えて、併願がしづらいという特有の文化のなかで、「どのタイミングでどこを受けるか」を戦略的に計画しなければ、選択肢が急速に狭まってしまう恐れがあります。
「攻めすぎず、守りすぎず」のバランスをとることが、今の放射線技師学生の就職活動における鍵といえるでしょう。自分の希望やスキルに合わせた柔軟な選択肢と、現実的なプランニングの両立が成功のポイントです。
働きやすさを重視する傾向
ここ数年で目立ってきたのが、ワークライフバランス重視の就活スタイル。夜勤の少ない健診センターやクリニックを志望する学生も徐々に増えています。
「夜勤がなくて、土日休みがある施設がいい」「職場の人間関係が穏やかなところで働きたい」といった声が多く、以前の“技師は修行”という価値観からの転換が見て取れます。
新人を迎える側に求められる視点
学生の多くは、見学時の印象や職場の空気感から志望を決めています。つまり、私たち現場の技師一人ひとりの振る舞いが、未来の同僚を左右するのです。
「丁寧に説明してくれた」「楽しそうに仕事していた」という体験は、学生にとって忘れられない印象になります。逆に、不愛想だった、雑に扱われたという印象は、敬遠される要因になります。
今の学生たちは、情報収集に長け、学ぶ姿勢も高い一方で、「働きやすさ」や「人間関係の安心感」も大切にしています。給与や設備だけでなく、“職場の雰囲気”や“育てる姿勢”が就職の決め手となる時代です。
現場の技師がそうした“学生の目線”を意識することは、将来の仲間を迎えるための第一歩です。もし、少しでも「うちの病院に来てほしい」と思うなら、まずは見学に来た学生に親身に接することから始めてみてはいかがでしょうか?